手がけた作品

JQ193_72Aさて、私が大切にしているのは、「ほかの人とは絶対に違うものを作ろう」ということだ。 最終的な見え方は、何かに似てしまっても構わない。アウトプットがほかの人に似る、というのは性格的なものだし、 前述したようにみんなが共感を得ることができる表現はもう世の中にあらかたでつっくしているからだ。 共感できて、話題性があって、ほかにはないもの。うーむ…めちゃくちゃ難しい。 実際にどんな風に「違うものを作ろう」としているのか、私が手掛けた作品を例に見てみよう。

クレラップで有名な株式会社の「クレライフきょうのおむすび」は私が クリエイティブディレクションの中心となって関わった初めての仕事だった。 当初の依頼は、「うちのB to Cサイトをデザインリニューアルしてください。」 それまでのクレハのWEBサイトは10年も前につくったようなステレオタイプなデザインのもので、 乱暴な言い方をすればこの依頼はなんか今っぽい見た目にというものだった。 担当者に私はこう話した「デザインを今風に直したり、 クールな感じにすることはすぐできます。ただそれをやることに意味はないと思います。 せっかく作るなら、人が見てくれるようなWEBサイトを意識しましょう」 しかし、大きく出た割には具体的なアイディアを持っていたわけではなく、どのように方向性付けをしたものかと すぐに途方に途方に暮れてしまった。 ⑥クレハの主力製品といえば、クレラップ。日本中で知らないひとがいないほどの大きなシェアを持っている。 クレラップの強みはなんといってもパッケージの利便性にある。パッケージにはラップの切りやすさが抜群に上がる 「クレハカット」をはじめとしたいくつもの工夫がなされている。他社のラップの愛用者の中にも 箱だけをわざわざクレラップのものに変えて使う人もいるほどだ。 また、クレラップのデータを見ると、耐熱性や密閉性は業界トップクラスだと思うが、 ラップ業界には競合製品がひしめいている。消費者はスーパーマーケットなどではセールになっているものを買うようだ。 こういう商品はWEB広告の対象としては一番遠い。

そこで考えたのは「強烈なインパクトを与えることによって好きになってもらえる人にすごく好きになってもらおう」 ということ。そのために、まず私自身が「これなら絶対に見る」というものを考えていった。 いくつか案を思い付き、プレゼンもした。クレハの担当者はWEBへの理解も高く客観的な意見を言っても 否定はほとんどしなかった。しかし、あまりに丁寧に聞いてもらえたので、「これでいいのだろうか」と思い始め、自分でもう一度確かめてみた。 インパクトはあるけれど、一般性に欠けているような気がする。確かに私がユーザーだったら面白いと思うけど、 会社の事務の子が見るだろうか。実家の親が見るだろうか。疑問が残る。いずれもクレラップのターゲットになる可能性が私より高いのに。

そんなある日、クレハの料理レシピのページに「ごま塩おにぎり」というメニューがあることに気付いた。 内容は2行。「ご飯にごま塩をかける」「クレラップで握る」これだけだった。 私は唖然とした。これがレシピと言えるのだろうか。このページもリニューアル時には何とかしなければとため息をついた。 しかしその直後私の頭の中に天啓のような雷鳴が轟いた。待てよ、なら、どんな具だったらレシピとして成立するんだ。 まずいおにぎりというものに人はあまり出会わない。なぜなら、コメはどんなものにでもよく合うからだ。 いやしかし、明らかにNGなものも存在するだろう。というか、おにぎりの具をずっと研究している研究科はいるのだろうか。 誰でも知っているしゃけやおかかのように「これはびっくりするほど合いますね」というものもあれば、 合わな過ぎて吹き出してしまう具もあるのではないか。 とすれば、例えば「おにぎりにフォアグラを入れてみマース」という映像があればちょっと見てみたくなる普遍性がある。 鬼木煮の具の種類は無限大だ。おかずの数だけおにぎりがある。それならば、誰もやらないような具を入れてみて、 じんちゅになるような実験コンテンツがあってもいいのではないか。「まず!この具は駄目でした」という映像は きっと誰でも興味がもてて誰にでもおもしろいものなのではないか。そう考えた。

そこでまずはアートディレクターと2人で実際に撮影しながらいろんなおにぎりを作ってみることにした。 生卵おにぎり、カラフルなチョコおにぎり、プリンおにぎり。すべて短時間で笑っている間に完成した。 まずいものはキチンとまずかった。プリンに醤油もかけてみたが、ちゃんとウニだった。都市伝説化と思ったら本当だった。 おにぎりを実食する際にこうして味に変化をつけれることをのちに私たちは「味変」と呼ぶことになる。 うーん、おもしろい。しかもすぐに作れる。これはたくさん作ったほうが楽しい。 そしてクレラップ、手の上にじかにご飯を載のせてにぎるとジワリと熱い。でもクレラップに包んで握るとあまり熱くなく、 確かにおにぎりが作りやすかった。これはいける。ビデオを見直して確信した私は、おにぎりのメニューリストを表にしてみた。 はじめは身近で味の想像がつきやすそうなもの。そしてだんだん常軌を逸した具材を使ったメニューに。 簡単に250くらいのメニューを思いついた。 これを作って試食する動画をひたすら更新していくコンテンツを作ろう。毎日いきあたりばったりな実験をしていれば ちょっと暇なときに「今日は何を作っているのかな」とのぞいてみたくなるだろう。これがコーポレーションサイトの トップページにそのままあればいいのではないか。 ⑩こうして「きょうのおむすび」の骨子が完成した。なぜ「おにぎり」ではなく「オムスビ」にしたかというと、 おにぎりよりお結びのほうがマイナーな呼び方で、インターネットの検索ヒット数も少なく、かつ誰でも知っている呼び名だったからだ。 語感がかわいかったから、ということもある。ただ、250本のムービーに既存のWEBショートムービーのクオリティを求めたら、 どうやっても予算に合わない。それに、よくできた感じに仕上がってしまう。だから、 すべて自分たちで撮影することにした。営業担当者にも皿を洗ってもらい、プロデューサーにもご飯を炊いてもらった。 監督と役者は社内や友人関係から探した、大学のころ私はシチュエーションコメディをやる劇団にいたのだが、 ほぼそのメンバーで構成できた。キッチンスタジオを借りる予算もなかったので、テストに使った アートディレクター氏の新居をそのまま使った。引っ越したばかりの彼の新居は嵐に荒らされご飯粒と機材だらけになっていった。